みんな素子さんがうらやましかった。『攻殻機動隊 新劇場版』感想
『攻殻機動隊 新劇場版』を見てきた。
おもしろかったです。
ARISEからの前髪パッツン素子さんによる、攻殻機動隊発足前日譚だ。
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あれれ。こんなに素子さんかわいかったっけ。
ARISEよりも少佐は目力あるキャラデザで、押井版攻殻によったデザインだったと思う。
瞳孔開いてる娘これ大好きなんで、パッツンの幼さ残るデコッパチな髪型もあいまって今までのどの少佐よりも己の好みにマッチでたいへんカワイイ。あくまで個人の好みだが。
序盤は「メスゴリラかわいいな~まさかこんな気持ちになるなんて」ってずっと見てた。グッジョブ。
だいたい自分は物覚えはあまりよくない。覚えていなかったところを脳内補完してしまうクセもある。だから考察も的外れのところで一人興奮している可能性もある。
大いにネタバレをして感想を書かせてもらう。
少佐はパッツンの今回に限り呼称は素子さんで通していただく。
■デッドエンドの冒険
今回の攻殻の話は工学・産業的に興味深く面白いテーマだった。
サイボーグはその瞬間最先端のテクノロジーで義体化を果たすが、機械は必ず劣化するものだ。
自宅のテレビやエアコンを、買い換えない人生はないだろう。
絶対に壊れない機械はない。
だから古くなったり、壊れたときに新しいパーツへ付け替える。最新ソフトに対応していないし、処理も追いつかなくなってくるからOSを乗り換える。
でも、あなたの愛用するテレビの保障期間は終わっていて、交換パーツの在庫はなくなり、あなたの使用しているパソコンはWindowsXPしか対応していないのに、あらゆるオフィスソフトがXPのサポートを止めていった。
製品のデッドエンド。
これがサイボーグたちの電脳・義体におきる現実的な問題だ。
今回の攻殻機動隊新劇場版で起こる事件の軸である。
人間のデッドエンド。それが存在するようになったのだ。
これはたいへん面白い。
「AIBO」じゃん。
こちらですね。こんな話題は現実にロボット犬「AIBO」問題として記憶に新しかった。
しばしば人間の機械化は永遠の命と一緒に語られる。鉄郎だってそうだった。
でも本当はロボットの寿命だって怪しいのだ。
永遠を前提とされ感動的に語られるロボ娘女子高生やメイドロボの、「私だけ変わらないで、みんなにおいていかれる」杞憂や「ご主人の最後を看取るメイドロボ」の切なさも、ひょっとしたら一番最初に壊れるのは彼女たちかもしれないからだ。
人間の寿命よりもはやく自宅のテレビは壊れるし、製品の保障期間は思ったより短い。
神サポートとよく聞く任天堂だって、古いカセットの内部電池は切れてセーブできないのだから。
世界の任天堂でさえそれだ。
製品のサポート終了が実質的な機械の寿命であるのだ。
こうした現実に近づいている社会の話題の一歩先を攻殻のデッドエンド問題といったふうにアニメで踏み込めるのは幸せだなことだ。
ところで機械の体って点では、私は『チャッピー』について気になりますね。
でもあれは記憶の転送らへんは設定上つっこむ感じに作られてないので、上手く工場の作業ラインにハックすれば体はいくらでも作れるからOKな気がする。いまさら思ったが、メガテクノ社ハックした人形使いと似たようなことやってたねアレ。
■クルツと素子さん
サイボーグはオーダーメイド性が高く、複雑な精密機器だ。調整やインターフェイスの最適化無しにレゴ感覚でパーツをチョチョイと挿げ替えられるものではない。だから義体のメンテナンスを続けなければ義体の破綻が訪れる。
そうした高価なメンテナンスを受け続けるためには、結局は個人の金に頼るか、大きな組織の福利厚生に守られるしかない。
攻殻世界では戦時中に負傷兵士たちがほいほい義体化されていた。
戦争が終わって、軍縮や軍の民営化が進むにつれて組織からあぶれる大量の元軍人たち、さらには命を救うために義体化されたはずの戦争孤児たちがメンテナンスを受けられず、デッドエンドを迎える危機が社会に迫っている。
古い義体のパーツの保障が切れていって、どこかの組織のパーツにならなければ生きていけないサイボーグたちの近未来。
この組織に所属し「有用性を示し続けなければ死」というサイボーグたちの不自由さは脚本・冲方丁の『マルドゥック・スクランブル』シリーズを思い出した。もしかしたら本人が好きなテーマなのかもしれない。
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さて、映画では素子さんと、素子さんの元上司クルツが対になって描写されていたようだった。本作の一応ボスがクルツである。
かつて素子さんの所属していた501機関の皆の延命のために、クルツはファイアスターターを利用しててんやわんやと暗躍していたのだ。ざっくりいうとそうなる。
てんやわんやの詳細は僕もあんまわからない。難しいもん。
クルツに率いられて501機関は、企業との提携を選んでいた。
企業複合体が国家を超えて、これから繁栄するという道にクルツは賭けたのである。
企業体に属すことは隷属する道である。
と、素子さんは思っているフシがある。
士郎正宗版の素子が孤児に言う「種(ギム)をまかずに実(フクシ)を食べることか? 興進国を犠牲にして――(略)」「未来を創れ」(新劇のキャッチコピーにもなってますね)というありがたいお言葉があります。
働かないで福祉を受けるな、という生活保障に物申してるみたいな、なに、このシーンはたかじんのそこまで言って委員会かなんかか、ってセリフとして受け取られているのも見受けるが、最後までが一連の文脈なので僕はこれ「搾取構造に甘んじるな、自分の価値は自分で決めろ」って意味だと思うのだ。
だから経済的な存在価値を与えられることでしか存続できない501機関の状況は、素子さんにとってゴーストを他人に預ける行為なのだろう。
素子さんは自らの正義の信念とゴーストに従い、攻殻機動隊という自分の居場所を自分で作る道を選ぶ。
ちなみに素子さんはゼロ歳児の全身義体化だったため、どうもあらゆる義体との連携が容易らしくデッドエンドが存在しないという才能を持っている。
不器用な褒め言葉で「お前たちは最高のパーツだ、替えが効かないんだぞ」とバトーやトグサら攻殻メンバーに言いまくっているのは、自身の簡単にパーツの替えが効く義体と対照的だ。
その言い草から、結局は素子さんのパーツのオーダーメイド性をメンバーに外部委託してるようで、自己同一性のデレを垣間見た。
言うたびにかわいかった。
■第三世界にいきたいか?
擬似記憶を埋め込むウィルス「ファイアスターター」とはなんだったのか。
オカルトとしてハッカーたちに伝わる、ネットにある「第三世界」こそがファイアスターターのことだと考えられる。
あれはネットに接続していた人たちの記憶や人格などゴーストの一部が、ネットのどこかでプールされて、擬似記憶として凝り固まったものだ。
そんなことをクルツが話していた気がする。うろ覚えだ。
だから死後、第三世界へ至るというのは、自分のゴーストの欠片がネットへアップデートされ、多くと混合され残存するという状態だ。
ある意味、永遠性の獲得であるし、己の記憶が他人で再生されたとき、それは蘇りとか輪廻転生とか言われる類の救済ではなかろうか。
こうしたゴーストが複数混ざっているモノというのは、ARISEでも語られていたし、双子の存在の意味へも繋がっている。
双子が第三世界の信仰に積極的なのは、すでに二つの脳に一つの義体と似たような状況にあって違和感がないからだろう。
そのプールされた記憶をネットからクルツが見つけて、ウィルスとしてバンバン利用されたのがファイアスターターだ。そうだと思う。
正直、こんなだし第三世界は安息とほど遠い気がする。
ファイアスターターのバイヤーだったクルツはそもそも義体化できない体質で、本体は孤児院のベッドにいながら、全て脳のない義体を遠隔操作して生きてきた。
余談だが、クルツ本体のジト眼がかわいかった。
クルツのこのやり方も、デッドエンド回避の可能性である。
ただ、クルツは義体を遠隔操作し、遠い場所からさまざまな人間を演じてきたことで、本当の自分が分からない。自分のゴーストを見失っていたのだ。
こんなの遠隔操作で戦場にドローンを飛ばす兵士と似たようなものだった。自分はここにいて、本当はどこにいるのだろう。よくそれで耐え続けていたと思う。
だからかクルツは第三世界行きを拒否した。
水に沈んで、ネットの無線接続を切ったのである。
彼女は彼女自身として死のうとしたのだ。
離人症と同様だった彼女にとって、どこの誰とも分からず混合されて残る永遠は、救済になんてならない。
だから自由な素子がうらやましかった、と言っていたクルツにはグッときた。
どこかの犬にならなければ生きられない501機関所属の人たちも、確固たる素子さんがうらやましかった。
うらやましかったから、星みたいな希望となって素子さんは輝いていけるだろうし、見上げて手が届かないことをつくづく知らされたらつらいだろう。
みんなうらやましかったのだ。
もちろん僕だってうらやましい。
まったく、そんな素子さんが魅力的だ。
とりあえず素子さんは「これから僕たちどこへいけばいいの」と尋ねる501機関所有孤児院の子供たちに「未来を創れ」と最後に発破をかけたが、まず僕は保護施設か里親だよな、って思った。
まあ、後始末は課長、ひとつよろしくお願いします。