日曜日はなかった。

Sunday is dead. 日々の雑感。見たアニメや映画、読んだ本とかについて。

怪人エレジー 映画『仮面ライダー1号』感想

 
ゴーストのOPで映画のネタバレを容赦なく食らってしまうので、これ以上は我慢できず!と、『仮面ライダー1号』見てきました。
しかし自分、夕方お茶の間のブラウン管にたれ流されていたファミリー劇場を幼い脳でぼんやり眺めていた程度の初代仮面ライダーは軽い視聴。人類の自由と平和を守る仮面ライダーより悪の組織のショッカーのほうを応援している捻くれた子供だったし、ライダーより藤岡弘探検隊を経由して藤岡弘が好きっちゅうまるで良くないライダー視聴者です。果たして、そんな人間が今年の春映画『仮面ライダー1号』を満足に楽しめるのでしょうか。
 
そんな不安を抱えたまま劇場へ行くと、冒頭バンコクのバーでごろつき相手に大暴れする藤岡弘でした。
西部劇みてえなシチュエーションですかよ。
 
結論から言うと、「悪の組織が好き」「藤岡弘の良さみ」といった私のごとき良くない人間に絶対おすすめな、たいへんジャストフィットする面白映画でした。

■悪の組織の内ゲバ

今回なんと、世界征服をもくろむ悪の組織ショッカーが内部分裂を起こし、一部の若手ショッカー怪人が離反して企業「ノバショッカー」を興します。
 
そう、起業するのです。しかも株式会社。
(社内決起式のシーンでco., ltd.とある! ちなみにこのシーン新入社員の入社式に見える)
 
武力で世界征服などしてどうなるのだ。そんなものは古臭い夢。これからは経済。企業形態で経済面から世界を征服するのが新しい悪の組織だ!
 
と、現実におきかえると悪趣味極まりないものを感じつつ、電気狼怪人のウルガは元ショッカー怪人・戦闘員たちを連れ、エネルギー会社を設立するのです。
 
この時点でもう面白い。
 
夜のバーで、ノバショッカー戦闘員がショッカー戦闘員と酒を飲みかわすシーンは「お前もノバショッカーに来ないのか?」と古巣に残る友人を誘っているのだと「イーッ!イーッ!」しかしゃべってないのに如実に伝わる。切ない。その後の喧嘩もコミカルなのに切ない。
 
ショッカーは世界征服という夢を追っているのです。なのにいまいち場当たり的な行動しかしませんし、かつてショッカー首領がいたころの熱狂を懐かしみ、取り戻そうとしているだけのごろつき集団にしかみえません。オカルティックで不気味な秘密基地も老朽化して工事現場じみて、湿っぽそうで哀愁を誘います。
 
老いてしまった夢追い人の巣だと思うと、もうつらい。
 
ウルガ君たちがそんなショッカー先輩怪人をバカにして、新しい今にあった組織を興したいと思うのもわかります。
 
でもそんなノバショッカーもウルガ君やるじゃん! 頭よさそう! とはならない。
 
日本中の電力を独占してから、それを新エネルギーとして政府に売るやり口はヤクザだし、出力あげて設備を爆発させるやり方はどっか抜けています。
ショッカーと争ってアレキサンダー大王のアイコンを奪っちゃうのは、結局強大な力を求めてしまう、いつものショッカーとあまりかわらないんじゃないの?
 
ここらへんで、たまらなく怪人たちが切なくて。
 
あ~ そうだよなあ~ お前たち全員脳改造うけてるもんなあ。ショッカーのやり方以上のことが骨の髄からできないんだよなあ。
 
あの日の熱狂を追い続ける未来を失ったショッカーと、それに嫌気がさしたのに古い時代の慣習から逃げ出すことはできないふうにできてるノバショッカー。
 
怪人たちの動向が、この映画ずっと悲しくて仕方がなかったです。
 
あと、ノバショッカーの女幹部は一人だけ怪人体がないのですが、たぶんショッカーの非戦闘部門に属していた人で、どうもあの雰囲気ではウルガのことを愛してたんだろうなと思います。
 
なんかそういった切なさがいくらでも湧いてきます、この映画。

終活の怪人たち

今回の藤岡弘(本郷猛)、長きにわたる戦いで肉体に限界が訪れており、それで死期が近いわけです。立花のおやっさんの忘れ形見で本郷猛が育ての親という女子高生との共同生活をするため今回日本へ帰国したようなのですが、どうも、これは穏やかな死を迎えるためみたいですね。
 
ゴースト視点では英雄として戦い続けていた男の、英雄ではない人間くさい弱い面でしょうか。
 
今回の見どころの一つは、女子高生とログハウスで暮らす藤岡弘。女子高生と遊園地でメリーゴーランド乗ったり、女子高生とランチしたりする藤岡弘。生活費を工事現場で稼ぐ藤岡弘。その圧倒的日常力のある藤岡弘
 
そして息絶えて火葬される藤岡弘
 
でもここで、藤岡弘は不死鳥のように復活するんですよね。燃え盛る炎の猛烈な上昇気流が、タイフーンの風車を回すことで。
 
それは女子高生の祈りが通じたかのような奇跡でしょう。死期を悟っていた本郷猛が再び生きて戦うことを決意した熱いシーンです。
 
しかし私はこれ、ああ、本郷猛(藤岡弘)は普通に死ねないんだなあ。
本郷猛は改造人間であるのだから。
 
という気持ちでいっぱいになりました。
 
女子高生に抱き着かれたまま、炎をバックにして微動だにせず立ち尽くす本郷猛(藤岡弘)は、改造人間の哀しみがフルバーストでありませんでしょうかっ!?
 
ここから藤岡弘というより改造人間「本郷猛」の割合が大きくなっていきます。
 
今回個人的MVPは地獄大使です。
 
アレキサンダー眼魂で暴走したウルガ君に対し、まさかのショッカー支部局長との共闘!その最後、ボロボロの地獄大使は本郷猛に「私と戦えぇ!」と涙ながら訴えます。そういったライバルキャラには普通ならラストバトルが待っているのに、「身体をいたわえ」と言って去る本郷猛の酷っぷり。
 
老いた者たちだらけだ。この映画。
 
廃れゆく悪の組織の老いた幹部だけが、ライダーと戦って満足に終わることは許されないのです。立花のおやっさんも、若かったかつての仲間たちも消えていき、時代は変わっていきます。
 
なお、立花モーターズ跡地に残されていたネオサイクロン号を駆り立て、最終決戦へ向かう本郷猛の「おやっさん、一緒に行こう」の一言は涙腺に来ました。
 
みなが死にゆくなかで、戦い続けることを使命づけられた改造人間を、本当に覚えていてくれるのは老いた悪の組織の幹部だけなのです。
 
本郷猛を改造したショッカーは憎く、人類の敵です。容赦はしません。しかし、老いた地獄大使だけが本郷猛とショッカーが戦っていた熱狂の時代を再現してくれるの証明なのではないでしょうか。
 
このねじれた関係が哀しく、個人的に強烈でしたね。
 
最後、新しい時代のライダーであるゴーストにメッセージを残し、老いたヒーローは去っていきます。しかし日本のショッカーは地獄大使を残し壊滅しました。もしかしたら仮面ライダー1号地獄大使は、未来に何かを残した老人と、何も残せなかった老人と存在が対照的なのかもしれません。
 
老いた改造人間たちの寂しさと戦い続ける力強さに妙な感動を得て、私は空っぽの劇場を去るのでした。
 
ちなみに劇場にほかの人が一人もいないまま映画を見るのは初めての体験でしたよ。