『君たちはどう生きるか』はSFなんだ。きっとそうだ。みんな信じてほしい。
宮崎駿『君たちはどう生きるか』2回目見てきました。2回目見る程度には、今作は自分の趣味ですねえ~。100年ぶりに感想書きたくなるレベルで。
Twitter(もといX)の感想とかチラホラ見つつ、メタファーや創作論、宮崎駿周りのメタ的な感想は多いんですが、ストーリーの読みが少なめなので不満なんですよね。まあ公開1か月くらいだしみんな抑えてるのかなあ~、でも今のうちに書きたいこと書いとくかあ、公開後にパンフレット出てから「いやお前の思ってるようなそんな話じゃねえから!」言われてからじゃ遅いんで!!
なぜって、自分は「めちゃくちゃSFで今作おもしれえ~」って思ったの!!!
ネタバレありありで見たひと前提の感想です。見てないひと考慮しません。
というわけで、以下は私の解釈(妄想)
■大叔父はマジで頑張ってた。
あらすじとしては、比較的シンプルだと思うんですよ。
母のヒミコを亡くした眞人が、母の実家に戻って父の再婚相手のナツコ(母の妹)と暮らすことになる。継母と打ち解けられないうちに、継母がいなくなる。継母を探して、異世界に迷い込んだ眞人は、異世界の事件に巻き込まれる。様々な出会いを通じて自分と向き合い、継母を助け出して、元の世界に眞人は戻る。
継母の受容とか眞人くんの成長とかは、いろんなひとが見解述べているので、述べられていない見解を重点して自分は書きたくてしかたない。
特に物語における世界設定について。
時間と空間の信頼性がなくなってるからなんかわかりにくいですけど、個人的に次の2点だけ押さえれば全部解釈できると思ってて、
- 「上の世界」(眞人くんのいた世界)と「下の世界」(石のなかの世界)のタイムラインとタイムスケールは別別。なんなら「下の世界」の個人間でタイムスケールも異なる。
- 「下の世界」は「大叔父の作った世界」の土台として「石に元々あった機能・システム」がベースにある。つまり「大叔父の意思」と「石の意思」が別々にある。
石ってなんだったのかというと「宇宙からやってきた生命を運ぶ船」ですね。
私の解釈(妄想)によると。
明治維新のころに降ってきた隕石の話が出て「おや? これファンタジーじゃなくてSFじゃないか?」といぶかしんで、その視点で見続けたら「パンスペルミア説やんけ!」と劇場で大興奮しました。ワラワラ周りの話題ぜんぶこれだと思う。
隕石が生命の種を持ってきたって話ですね。
あの「隕石」の設定で面白いのが、「上の世界」のタイムラインを無視して、別のタイムラインで時間を貫いて存在している点なんですよね。
なので劇中の60年前に隕石は落ちてきているけど、あの時点で隕石のなかにある「下の世界」は「上の世界」の生命の発生から滅亡まで、ぜんぶの時間に横たわっているって解釈できると思ってるんですよ。
なので嘘偽りなく、ワラワラは「上の世界」で誕生している生命なんですよね。
隕石は「死」と「生」を地球に持ってきたんですよ。
(なので「下の世界」には根源的に「死」が実装されています)
こう考えるとめちゃくちゃ面白いSFだなあ!
これってSFだなあ!
そう思うよなァ!!
直近落ちてきた隕石なのに、時間をさかのぼって地球生命誕生のきっかけになる。
じゃあ、最後に「下の世界」が崩壊しましたけど、ワラワラも滅んで「上の世界」はどうなっちゃうの?
もちろん地球生命は滅んだんですよ。
でも現実のタイムラインとしては、ずっとずっと未来の話なんじゃないですかね。
だからこの話、(未来の)人類存亡をかけためちゃくちゃセカイ系なんじゃないの?
ってなると、大叔父は「下の世界」=「上の世界の生命」が滅ばないようにずっと頑張ってたんですよね。
こりゃ崩壊する世界でクライマックスにヒミコちゃんも「大叔父様、ありがとう」って言いますわ。
全生命からの「ありがとう」ですよ。
石に見初められた(呪われし)一族とセカイの話なら、眞人くんと大叔父様の問答もマジで世界の命運をかけていた。
■大叔父の悪意とペリカン
「下の世界」の石はすべて悪意に染まってると大叔父は言いましたが、ベースとなる隕石には「死」と「生」しか本来なくて、悪意なんて実装されてないはずなんですよね。
悪意は人間が持ち込むものなんだから。
誰があの世界を「呪われた海」にして「悪意」をばらまいたのか。
大叔父ですよね。
なんか聖人といえば聖人ぽいんですけど、そうとうこの大叔父もろくでもないやつだと思うんですよね。
本読みすぎて、頭おかしくなったって外部評価なんだから。
じゃあ、大叔父の悪意ってなんだったの? というと自分の想像だとそれが「ペリカン」を「下の世界」に持ち込んだ理由なんじゃないか。
たぶん、大叔父は「上の世界(現実世界)」に絶望していて、一度は滅ぼそうとしたんじゃないでしょうか。
ワラワラを食べつくすことで。
そのためにペリカンはワラワラを食べる役割のために持ち込まれた。
でもそのために、「下の世界」に自分の悪意がばらまかれてしまった。
大叔父はそれを悔やんだんだと思うんですよ。
そのペリカンを止める装置として、大叔父が使ったのが「ヒミコ」ちゃんです。
ヒミコちゃんをかつて「下の世界」に誘い込んだのは大叔父で、「下の世界」で追加された特殊な役割を担えるのは、大叔父の血縁となる一族だけ。
ちなみに、「大叔父の意思」による「下の世界」への導き手は「アオサギ男」が担ってるのでしょう。唯一「人間(上の世界)」と「鳥(下の世界)」のハイブリッドだから。こいつ大叔父の作った改造人間なんじゃない?
もういらなくなった呪われた役目を担い続けるペリカンは、本当にかわいそう。
大叔父は、石のベースとなる生命のシステムは活かしながら、石のなかの世界に自分の理想郷となる箱庭をつくろうとした。でもそれも限界に来ている。だから後継者になりうる眞人くんに継がせようとしています。自分には作れなかった清浄な箱庭を再びつくらせるため。上下の世界を存続させるために。
■眞人くんがキリコさんを創造した説
ベースとなる「石の世界」に「大叔父の創造した世界」が混ざってるのが「下の世界」で、ワラワラや原始の海っぽいのも「石の世界に元々あった機能」を元に「大叔父の創造が重なってる」存在なんじゃないかと自分は思ってます。大叔父が本で読んだ知識(原始の海)とかがね。
あの「下の世界」でキリコさんが住んでる唯一幻ではない船は地球に到達した「方舟」そのもので、幻の船たちは、宇宙にある他の「方舟」のことなんじゃないか。「方舟」にいたキリコさん以外の「無貌の人々」は、個人的にしたのどれかだと思っていて
- 石にあった元々の機能の擬人化(「下の世界」の機能の何かを担っている)
- 石の周囲に塔を建築する際の事故で巻き込まれて、(石の意志で)「下の世界」に飲みこまれた人々
- それ以外の機会で(石の意志で)「下の世界」に飲みこまれた人々
※「インコに食われた鍛冶屋」の存在が示唆されているように、大叔父の関係者以外の人間がいるんじゃないかなあ?
で、自分的にはキリコさんは元「無貌の人」なんじゃないかと思ってます。
じゃあだれが顔を与えたのか?
眞人くんですよね。
だって眞人くんは、大叔父の後継者たる、大叔父と同じ「この世界を創造」する力があるから。
眞人さんは、「ワラワラに食事を与える役目」の「無貌の人」に出会った。その際に、無自覚に「自分の保護者・母としての姿」を「キリコさんとはぐれた」つじつまあわせにキリコさんをオーバーレイして、「下の世界のキリコ」さんをあの世界に実装したんじゃないでしょうか。
もちろん、タイムラインは無視して、あの瞬間実装されたキリコさんというキャラクターは、「下の世界」の過去にもさかのぼって実在することになります。
※キリコさんも最後に世界から脱出したけど、あのキリコさんは扉から出ると同時に消滅したんじゃないか(その証拠に、ヒミコちゃんは幼いころひとりで帰ってきている)代わりに、オーバーレイされていた老婆のキリコさんはお守りからもとに戻った)
だからキリコさんの家にあった「お婆さんたちの置物」も、あれを想像したのは眞人くんなんじゃないか。
「嫌悪していたのに、自分のことを大切に思ってくれていた存在・守り」として無意識的に気づいたから、無自覚に力を使ってあの世界にあの置物を実装したんじゃないでしょうか。
この「下の世界」は、ベースとなる「石の世界」に「大叔父の創造した世界」とさらには「眞人さんの創造した世界」が混ざってるめちゃくちゃ不確定な世界なんじゃない?
■ナツコさんとヒミコさんの円環
「大叔父の意思」と別に「石の意思」がある。ギャグみたいだけど、石の意思。
ナツコさんを「下の世界」に連れてきたのは、「石の意思」だと思うんです。
石=墓石でもあって、あのナツコさんは産屋で、石に見初められて、石の生贄になる運命だった。
おそらく、本当は死んでしまう運命だったのは姉のヒミコではなく、妹のナツコのほうだったんじゃないでしょうか。お産が原因で。
でも、眞人くんとヒミコちゃんがナツコさんを助けに産屋へ行って、ヒミコちゃんが石に「私が代わりになる」と言うんですよね。
石から走るエネルギーの電撃が、壁を走ってナツコちゃんに浴びせられて、気を失う。同時に緞帳が降りる。この瞬間に、死の運命がナツコさんからヒミコちゃんに移動した。石の見初め先が切り替わったのだと思います。
ナツコさんとヒミコさんの運命は、円環してるんじゃないの?
なんだこの一族にからみあうデスティニー
おもしろいねえ~~~
■マヌケで美しい世界の終り
ここからはもう自分の好きなもの語りなんですが、
なんで2回も自分が見たかって、あの「下の世界」の崩壊が好きなんですよね。
これを見るためだけに、この作品を何度も見れる。
インコの築いた世界が愛おしくて、短いシーンですけど、インコたちは食堂か居酒屋でわいわい楽しそうにしてるし、卵を並べた部屋でインコが子インコの頭を撫で繰りまわしているのが自分大好きなんですよ。インコみんなアホなんですけど、苦楽もありながら、あの世界で文明を築いて繁栄しているわけじゃないですか。
世界がぶっ壊れて、一部のインコたちが眞人と一緒に扉からおしあいへしあいしながら逃げ出してくる。ここまでにたくさん死んだと思うんですよ、それでも必死に逃げてくる。
でも扉から逃げ出した先から、みんな小鳥のインコに戻っていくんですよ。
ちいさくなって、築いた文明も知恵もなにもかも失くして、なんもわかんなくなってウンコぶりぶりしながら飛んでいくわけです。
滅びゆく世界から、せめてもと持ち出してきた背中の風呂敷には、本当に大切なものが入っていたんじゃないかな。
でもそれもなんだったか忘れて、ぜんぶ落としていって、鳥になって飛んでいくわけです。
でも鳥が飛んでいくそのラストシーンが本当に自分は美しくて、でもマヌケで。
自分はこういう、美しくてマヌケな世界の終りがめちゃくちゃ好きなんですよね。
滅亡にかわいげがあるというか。
知恵を失ったインコたちは「天国だあ」と涙した場所に行けたんですかね。
失楽園していたんだから、行けたんでしょうね。
■そして「ナウシカ2じゃん!」って思ったんだ。
ネットを見てると高尚な暗喩の読解やメタ読みが多くて、もっとボンクラなストーリーや設定の解釈の話が自分はしたくて今回書きました。でもそのうえでメタ的な話も。
世界の存続に関して、大叔父と眞人くんの「引き継ぐ・引き継がない」問答は、ぜったいみんな『風の谷のナウシカ』コミック版7巻の墓所の主とナウシカの問答思いますよね。
思うね?
私は思った。
「積み木じゃない、墓と同じ石です」とかいうところで「ここ墓所やん~~大叔父は墓所の主やん~~」って悶絶した。
「いつのまにか自分はナウシカ2を見せられている!」と(勝手に)思った。
思ったことしか話しません。
ナウシカは、墓所の主との問答で「清浄と汚濁こそが生命だ!」と言って「清浄な人間世界」の未来をつくる引継ぎを拒否します。
眞人くんはナウシカと同様に「自分もまた清浄ではない」と言って大叔父の引継ぎを拒否しますが、ケリをつけたのは眞人くんではなくインコ大王でした。未来をぶっ壊したのは、ナウシカの代わりの眞人くんではなく、横から割って入った時の為政者なんですね。
これもべつにインコ大王も悪者じゃなくて、インコ大王のやるべきことをやっていただけなんですよね。
これが、「宮崎駿の今の回答か」と勝手に感心して、
老人と若者が未来の引継ぎをわちゃわちゃしているあいだに、どうせ時の為政者という横やりで世界は滅ぶ。
例え滅びゆく未来でも、若者がそれを引き継ぐナウシカの結末にはならないんだ。
滅びゆく世界を置いていって、若者は若者で友達と新しい世界でなるようになる。
めちゃくちゃ諦念が見えて、驚いた。
宮崎駿がこの諦念でこれをやったらもう、ナウシカ2は誰もつくらないんじゃないか? と思う。
あと2回目を見て最後気づいたんですが、東京に行く直前の眞人くんがポケットから何か出して一瞥するんですよね。それがなにかは画では見せないんですけど。
あれ、あの世界から持ってきた石だと思うんですよ。
この物語自体が、眞人くんがあの石を見て思い出した回想なのかもしれない。
アオサギ男が「どうせ忘れちまうさ」と言っているように、
こうした物語を私たちは持ち帰って、忘れてしまうかもしれないけど、たまに思い出してこねくり回してほしい。
そんな作り手の願いも見えて良かったです。