日曜日はなかった。

Sunday is dead. 日々の雑感。見たアニメや映画、読んだ本とかについて。

『少女終末旅行』6巻感想 終わらない終末旅行が始まるぞ!ただしお前の頭のなかでな。

 

少女終末旅行 6巻(完) (バンチコミックス)

少女終末旅行 6巻(完) (バンチコミックス)

 

 

通常版と限定版の二冊買いました。だって表紙のデザインが違うんだもん。 はい、最終6巻が出版されて手元に届いてから、Amazonの包装をやぶくまで3日かかったわけです。
 
こんなに読むのを躊躇した漫画は初めてでした。
 
少女終末旅行」のアニメ放映中もさ、
私は朝方の四時に目が覚めて布団の中で、
 
少女終末旅行の終末って、終末医療の終末とかと同じ意味かな」
 
「じゃあ、療養所にいるもう長くない美少女を眺めてるのと同じじゃないかこれ」
 
「あれ、なんで女の子が死にゆくの眺めて喜んでるんだ? 自分は。」
 
って唐突な罪悪感に身を丸めてましたよ。
 
で、読んでどうだったって?
 
率直に申し上げて、最高でしたね。
 
読み終わっても一週間は脳みそが持っていかれ、まだまだいまも余波で混乱をしているわけです。
会社でも業務中に、ため息が出るわけ。
トイレ行っただけなのにチトとユーリと世界のこと考えて、便座に座ってため息出るわけ。
 
こりゃあ 心身の健康に影響がありますね!
 
なので、なにか吐き出して心のざわめきを治めたく、このまとまりのない感想を書いていきます。
だから考察とかそんなものですらなく、ネタバレとか余裕にあるのであしからず。

■つけ入る隙間がないぞ。冷たく乾燥した鉄壁の元で

なにに私が感心しているかって、この物語は鉄壁なんですよ。
 
4巻の時からはっきりしていましたよ。
 
 
意外性とかそういうのは正直なくて、
もうわかりきってたようにやっぱり最後は「死」なんですよね。
 
彼女たちがいつかこうなることは読んでた人間みんなしってたわけ。
薄々、最上階に人間はいないだろうな、とも感じていたわけです。
 
5巻で人類最初の絵と言われるラスコーの壁画の横に、人類最後の絵を飾って
6巻のDNAの螺旋を思わせる階段は宙で途切れるんですよ。
 
あざとすぎて、出来すぎなくらいの舞台演出で彼女たちは最後の人類ですし、
人類が滅びることは確定事項だって、コマというコマが訴えてるんですから彼女らは死にますよ!
 
だって彼女たちがやっていたのは、人類のお葬式ですよ。
文化のお見送り。
 
けものフレンズでは「人類」という種はもしかしたら絶滅したかもしれないけれど、
あれは人類という歴史と文化の再発見の旅だったじゃないですか。
 
ヒトは絶滅したかだとかどうとかもうそんなのは関係ないっ!
だって、僕たちの文化の末端で、フレンズの彼女たちはドッタンバッタン笑って生きてるんだから!
そう、我々の文化を引き継いだ彼女たちがいてくれる。
私たち旧人類はだからあれを見て安心していられたわけじゃないですか。
ミームが残ったわけですから。
 
でも、「少女終末旅行」の彼女たちがやっていたのは、人類のお葬式ですよ。
種と文化のお見送り。
遺伝子も模倣子も喪失します。
 
彼女たちの歩みは人類の歩みをなぞって、
もっとこうしたら生き残れたのに、もっと暖かい結末があったかもしれないのに
いろんな選択はあったかもしれないけれど
何かせずにはいられずに「終末」にむかって歩んでいった
人類と、最後の人類のチトとユーリの旅
 
このマクロとミクロのリンクしてる感じ!
 
現実はこんな終末じゃないことはわかるけど、
最後の人類は自分が最後の人類だってきっと気づきもしないだろうけど
必ず未来のどこかに現れる人類最後の人間にまで思いを巡らせてしまう!
(ここらへん自分はモーレツにSFを感じますね……)
 
最後の絵。最後の歌。最後の料理。最後の酒。
コンロの燃料は消えて、文明の火は失われました。
 
彼女たちは最後
生誕とは逆方向の、胎内に戻っていく行程を経て遺伝子の螺旋を上っていくわけで、
ここまで念入りにお膳立てされた「死」の演出のうえで、
この漫画が種としても文化としても「人類」を弔ってるなら、
彼女たちの死は避けられないんですよ。
 
人類の終末を物語る
この物語の上で、彼女たちは死ななくちゃいけないんです。
 
だから鉄壁なんですよね。
 
この構成の上で、この結末はつけ入る隙なく彼女たちの死で完璧なんですよ。
この月のような雪原で死ぬ結末はこの物語で避けようがないんですよ。
 
「完璧な漫画だ……」
 
初手の感想はそれでしたよ。
 
でもね
ここはもう完全に私事の感想なんですが
鉄壁すぎて、隙が無くて、まったく彼女たちの生き残りようがないことに自分は異論ないのに
 
なんだ!?こんなに物語として完成しているのに、この気持ちはなんだ!?
 
ってずっとモヤモヤしまして、
 
読み終わって1日たってからやっと気づいたんですよ。
 
「ああ! 僕は彼女たちにお腹いっぱいにご飯を食べてほしかったしふかふかの布団で寝てほしかったしもっと長生きしてほしかったし、決して飢餓とか寒さとかで死んじゃわないで最後まで満足に暮らしてほしかったんだ!」
 
ここまでキャラクターに感情移入してたなんて気づいてなかった。
 
こんな気持ちわたしはじめて!
 
あー、助けてくれ。
 
それからずっと助けてくれって思っているんだ私は。

■助けてあげよう(助からないけど)

でもそこで、このラストのエピローグです。
チトとユーリの最後に眠った場所に、彼女たちはおらず
彼女たちが最後に背にして眠った巨石の壁面には、謎の幾何学模様
寒い世界から消えた彼女たちと、次のページの「あとがき」には、麦畑で呆ける二人の絵。
 
生き残ったのか?
食べ物もあって暖かい場所に行けたのか?
どうやって?
この幾何学模様は、機械の言葉なんじゃないか?
機械の言葉はアニメだと特徴的だったろ。
エリンギも行っていなかった最上階は別の人工知能のなわばりで、
この巨石は機械で、彼女たちを救ったのか?
 
いやいや、単純にほかの最上階の場所を見に行ったんだよ。
それか、雪の中の幾何学模様をみて、これが何か探りに行ったんじゃないか
だってヒトは死ぬまで何かをせずにはいられない生き物だから。
彼女たちの旅は終わるまで終わらないから。
遠くない死は覆せないね。
巨石は墓石で
幾何学模様は墓碑銘さ
落ちていく流れ星は一般的に死の演出だろ。
この物語は彼女らの終わりを宿命づけられている物語だよ?
 
でも、終わりは決定事項でも、もう少し先延ばしはできるだろ?
暖かい場所で死なせてやることもできるだろ?
 
6巻でチトが言っていた
「いつか終わると思っていても何かをせずにはいられない」
 
我々読者もそうだよ!
気になるよ!
なんだよあれは!
わからないよ!
だから彼女らがもっと暖かい場所にいけそうな結末を
こうしていろいろ考えているんだよ!
 
ここで読者(私)はハッと気づくんですよ。
この、わからないことに「なにかせずにいられない」源が、
人類を進ませもして、滅ぼしもしたのだな。
 
完璧か!
 
なんだこの漫画!
すごすぎるだろ!
 
彼女らはいつか死ぬだろう
これ以上の救いはあるかもしれないし
まったくないかもしれません
 
なんだ
書きなぐっても結局、忘れられそうにないな!
心身に影響は残りまぁす!
 

 

TVアニメ 少女終末旅行 公式設定資料集

TVアニメ 少女終末旅行 公式設定資料集

 

 設定資料集買って私は救われるのでしょうか?

 
 
 

『尾道てのひら怪談』やっぱり猫が多かった。あと、ありがとうございます。

 

800文字で書ける、てのひら怪談のお祭りが大阪飛んで尾道でもありました。

尾道てのひら怪談

 

onomichikwaidan.wixsite.com

昔一度だけ旅行はしたことがありますが、あの怪しげな感じはほんと絵になりますよね。まさに怪談。ばっちしな雰囲気でございます。

 

薄弱な私の脳裏にはノスタルジックな坂道と猫くらいしか刻み込まれていないのですけど、その尾道テーマのてのひら怪談募集がありまして、今更ながらその報告となります。

 

応募作『類似』 佳作

 

たいへんありがとうございました。

人生の励みになります。

 

いつもどおり、気持ちの悪い話です。船と魚が出てきます。

受賞作は↓のリンクで読めるようなので、ぜひお時間あったらご一読を。

尾道てのひら怪談

 

尾道性あれで良かったんですかね。瀬戸内には『浮鯛抄』(ぐぐろう!)とかそういった話があるなあ、ってのぼんやり知ってた程度なんですがそれネタです。これが尾道にも該当するのか心配でした。そこらへんに関心持ったのが、

 

幻の漂泊民・サンカ (文春文庫)

幻の漂泊民・サンカ (文春文庫)

 

 これ読んで出てきた海の漂泊民「家船」だったんで、まあ、何がネタとして功を呼ぶかわからんですね。

 

以下、参加したほか2作『割ることでしか』『ヘッドライトの先で』はせっかくなのでここに掲載いたします。もったいない精神です。サイトの方にもありますが、拙作にコメントくださった方どうも本当にありがとうございます。嬉しいです。

あと、反省点はあれですね。猫避けてもっと尾道堀ったほうが面白いのできそうでしたね。

 

 

■『割ることでしか』

女子の方が大人に見えて、二歳年上ならなおさらだったけど、幼馴染のマキとはよく遊んだ。お姉さんのマキを手下みたいに扱えるのは気分が良かったし、マキは僕に懐いていた。マキは少し、頭の足りない子だったから。

だからいつも僕がリードしていた。マキが欲しがるから、僕が教えたんだ、ビー玉の取り方。あの店のビー玉はラムネ瓶を割らなきゃ取れなかった。がきん。テトラポッドに叩きつけるのさ。がきん、って。

飛び出た小さなビー玉を掌で転がして、マキはそれこそガラス玉みたいに目を輝かせて、聞いたことない歓喜の声をあげた。「中身」そう言った。「きれえ」そうとも言った。

次に会った時、マキがテトラに叩きつけていたのは野良猫だ。

「中身」へしゃげた猫を小麦色に焼けた腿に乗せて、つまんだ目を夏の太陽にかざした。「きれえ」熱に浮かされたような見たことない、艶めかしい目つきをしていた。

 やっちゃいけないことだ。許されない。だからそう言った。でも、みんなに黙っててあげる、代わりに。魔が差した。浮いた汗、擦れる肌、脱がせた水着の痕が白く……テトラポッドの影で、僕はマキにさ。

 鶏。野良犬。亀。がきんがきんっ。マキは次々割った。飛び出た中身を掌に載せて、僕の胸に擦りつける。いつの間にか主導権を握っていたのはマキだ。「中身」腰を押し付けながら、マキは笑った。僕を使って彼女は自分の中を探っている。がきん。知りたいの。

取り返しのつかないことをした恐怖が胸に詰まって、咄嗟にマキを突き飛ばした。

 がきん。

 マキがテトラに頭を打ち付けた瞬間、僕は確かに見た。流れる血と一緒に転がった、赤く小さな玉。あっけなく潮だまりに落ちた。

抱えたマキの頭は軽く、きっとマキの脳みそは陽の光を纏いながら、あぶくを出して沈んでいった。ラムネみたいにね。きれえ。

 

 

 

■『ヘッドライトの先で』

家族旅行で行きました。平野に暮らしていたから、坂に家が貼りついたアスレチックみたいな町は、路地裏を歩いているだけで冒険みたいで、生えていたねこじゃらし草を振り回しながら、ずいぶん楽しかった気がします。両親が止めるのも聞かずに、細い坂道を上がったり下ったり。誰もいない場所にはぐれてしまったら、道端には猫の首がぽつんと置かれていました。三毛でした。

あの猫は、首だけで、みい。って鳴きました。猫は痛くもなんともないふうで、まん丸な目で僕を見ました。事故でしょうか、身体の方は1メートルばかり先に横たわっていて、倒れた角パイプが中世の処刑器具みたいに首のところへありました。猫はいま手足を舐めれないことが不満げで、不思議そうでした。

いたずらに胴体を切り離されたクワガタの頭は、飼育箱のなかで顎を開いて威嚇してきましたし、動物がこうなることに対して幼い僕はあまり違和感がありませんでした。でもあのクワガタは長くなかったことが可哀そうで、僕は猫の頭をもう一度くっつけてみようと思いました。どうにかなる気がして、近づいて頭を両手で持ち上げると、動物を触るのは初めてだったな。毛の生えた皮膚の裏に、固い骨、匂いは香ばしかった。でも僕はポケットに突き出たねこじゃらしをすっかり忘れてた。そいつが揺れて、突然赤い口を開けた猫に驚いて手を放したら、落ちた生首は坂道を転がって、どこかの暗がりに消えちゃいました。あとはもう、動かない猫の胴体だけ。僕が殺してしまったような、嫌な感じだけが残りました。あれは現実でしょうか、それでもあの状態で息のあった猫は偶々なんでしょうし、助けられたとも限らないでしょ。

だからって、あなたは別だ。取り扱いには気を付けて。横転した貨物トラックと、ぺしゃんこに潰れた僕の車を見つけた君には。

そう言った男の、アスファルトに乗ったまなざしが、ヘッドライトに照らされた。