『書き下ろし日本SFコレクションNOVA+ バベル』
『書き下ろし日本SFコレクションNOVA+ バベル』 大森望責任編集
かの第45回星雲賞自由部門を獲得した《NOVA》シリーズのリブートである。
去年発売だけど今更読み終わった。
僕はこのアンソロシリーズが好きだ。
毎回全作新作読みきりなので、気まぐれシェフ大森望のおまかせランチみたいなもんだ。
黙って座って黙ってページを開けばだいたい美味い。
今まで自分の乏しいサーチ能力に引っかかってこなかった作者の作品をつまんで読むことが出来る。
あら、こんな著者も、珍味かしらと食って大衆食堂の安心味だったりする驚きもある。
「なるほど、これが今の旬なのですね」
「ンまぁ~い!」としおしおの眼ン玉でシェフ大森に目配せする。
自分ひとり盛り上がっても、シェフは厨房で寡黙に包丁を研いでいたりする。
収録作は
宮部みゆき「戦闘員」
月村了衛「機龍警察 化生」
藤井太洋「ノー・パラドクス」
野崎まど「第五の地平」
酉島伝法「奏で手のヌフレツン」
長谷敏司「バベル」
円城塔「Φ」
毎度ながらいい仕事してますね~。
特に好物だった部分を紹介したい。したくてたまらない。
■宮部みゆき「戦闘員」
あてどもなく習慣化した日々に埋没した独居老人。凝り固まった生活サイクルの散歩のさなか、老人は奇妙な光景を眼にする……。老いた男に忍び寄る監視の影! ひとりぼっちの少年の戦い! 日常でなにかが起きている!
こうゆう社会的弱者が奮闘する物語がふんともう好きです。(渾身のギャグ)
さておき序盤の老人の凡庸とした生活から一転、ホラーやサスペンスの強みがジットリ増していってバスの中で読みながら普通に怖くなりました。
人知れず監視して、毒電波で人を狂わし殺す侵略者の影。
まるっきりB級な侵略行為なのに現代へ変にマッチした姿に、読んでると平気で
「もしかしたらそうかもしれないな……」
ってリアルな凄みを感じるぜ。
だけどさ、このラストさあ。
こんなオチ、人生一回っきりの技だからな!
もう絶対使うなよ!約束だ!
めちゃくちゃ面白かったけど!
■バカSF二連劇「スペース珊瑚礁・第五の地平」
1)スペース珊瑚礁
全身のミトコンドリアが意思を持って「聞こえますか……聞こえますか……今……あなたの心に……直接呼びかけています……」してくる。オチが最高にギャグマンガ。
2)第五の地平
「チンギス・ハーンは幼名をテムジンといった。(略)チンギス率いるモンゴル部族は今や、西のナイマン部族、ケレイト王国にも比肩する巨大集落へと成長していた」
「へえ」
「またこの時代、人類の宇宙進出は加速度的に進んでいた」
「ファッ!?」
この二作は連続で来るとあたまがわるくなります。褒め言葉です。
長距離バスに乗りながら読んでたけど、ずっとニヤニヤしてる気持ちわるいのが僕でした。
明の最新科学技術であるタブレットにこれまた明の最新の発表用ソフト「力点」を表示するくだりは人に教えたくなるほどバカだ(満面の笑顔)
「スペース珊瑚礁」は《NOVA》から続く《スペース金融道》シリーズ。ウシジマ君みたいに死にたくならない。
今までのもたいへん面白おかしいけど今までの読む必要は全然ない。それぞれ個別の作品となっている。
僕はこれアニメ化しないかなぁ~
ってずっと思っている。
ただミトコンドリアは「真核生物」が細胞に共生したって記述があるが、それ「原核」生物のミスでは?
まあ、些細な話。未来だからどの程度知識失われてるかわからんです。
■長谷敏司「バベル」
ビッグデータを使ったシミュレーションや3Dプリンター。最新のテクノロジーが出回って、宇宙エレベーターがそびえる未来の中東。イスラムの長い歴史に基づく「古さ」が渾然一体となって、より高いところへ行きたい若者の鎖となる。
この「仕方ない」や「昔からやっていた」という歴史に寄った思考停止は、社会を保つ大きなかなめになっているんだろう。
でも同じくらい大きな重りとなって、このどうしようもない息苦しさに若者や貧者は押さえつけられている。
時にそれは顔を遠い天へ向かせる力にもなる。
底にいる絶望にも繋がっている。
どうすればいいんだろうと考えながら、とりあえず僕たちは少しの希望を胸に歩き続けるしかない。
やるせない読後感に、社会生活を目前とする僕は頭を抱えるしかなかった。
いつものことながら長谷敏司は残酷さを戸惑わないリアルなテーマを掘り出してくる。この嗅覚はどうなってるのだろうか。
そして読ませるところを圧縮してリーダビリティ保つ技術は眼を見張る。話重いのにサクサクよんじゃうYO!
正直言って身に迫りすぎて辛さまっしぐらなんだが、いかんせん夢中になる面白さは太鼓判なのだ。
上記に限らず、
酉島伝法「奏で手のヌフレツン」
円城塔「Φ」
もたいへんこころド直球の面白さである。
これらは単純に読んでて「おもれえーっ」ってなるのである。
読み心地が面白いのだ。
人にあとでその味のどこが良かったかいえない。
よくわからんものを食わされているからだ。シェフ、その紫色だったり黄色だったりするグニャグニャした塊はなんですか。匂いは芳しいが…
そういうものに近い。
だから読んでほしい。
喰って後引くというより、噛んでる感触がうまい系だ。
ナタデココに近いのです。
ナタデココ系SFって言葉 流行るでしょうか。